考えてみると、あの人に信用された覚えが、ない
あと、ものごころついてから、抱きしめられた記憶もない

なにか言うと
「ほんとかしら?」
と、唇を歪めて冷笑しながら眉をひそめる顔は
ほとんどわたしにしか向けられなかったけど
その表情は、高齢者となったあの人の顔に
ある時からうっすら刻まれるようになった

ちょっと、般若の面っぽくもある
自分はああいう顔になるようなことはしたくない

なにしろ、わたしが教会学校の友達の家に
遊びに行っていいかと聞けば
まるでその友達まで信用できないかのように
「大丈夫かしら?」
とその表情でわたしに言い、向き直って
「ねえ、あなた、行かせてもいいと思う?」
と、わたしの父に却下を前提に言い募ったりしていたのだ

父が呆れて
「大丈夫でしょ」
と言ったので遊びには行けたが
その友達はあの人のお眼鏡に叶わなかったらしく
引っ越してからは手紙を隠されたり
電話を取り次いでもらえなかったりで
連絡を絶たれ、いつのまにか疎遠になった

そういうことをされ続けたことが
けっきょく、わたしが子どもを持たなかった
いちばんの原因かも、しれない

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